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音ってすごいね。
-もう一つのサウンドスケープ-

音ってすごいね。 -もう一つのサウンドスケープ-

第3回目
●担当編集者は知っている(担当編集者:晃洋書房 井上 芳郎)

 →この内容は、ほぼ日サイト2004年5月20日に記載されています

『音ってすごいね。― もう一つのサウンドスケープ―』

『・ design myself by sounds』
音からのジブンデザイン
自力で人生の羅針盤を決め、
航海するのはたやすくない。
けれど、音をきっかけに自分自身や世界を
しなやかに感じつづければ、
人生の進むべき道筋を探し求められると思う。
聴いては感じ、聴いては感じる行為の中で、
生きるためのエネルギ−を獲得する。
その力が音の正体であり、人生の道標なのだ。
(プロローグより)

「気持よく生きるために。」
糸井重里さんからこの本に寄せていただいた帯文です。
糸井さんの直筆で書かれています。
著者の小松正史さんは、
従来から「ほぼ日」の熱烈な読者。
色々なパワーを「ほぼ日」からもらってきた縁もあり、
小松さんから糸井さんに帯文執筆依頼していただいたところ
快諾していただきました。
この一文の帯は本書が従来のサウンドスケープ(音の風景)論と
一線を画することをものの見事に物語っています。

著者の音に対する原点は故郷、
京都府宮津市の丹後ちりめんのはた機音。
「ガッチャガッチャガッチャ」
小刻みに一定のリズムを保った機械音。
この音から、
思いは春野をかけめぐり、鳥になり、
羽をはばたかせ、
気がつけば上空から故郷を見ているような気分にさえなった。
という著者。

私が出会ったある精神分裂病者が
「ぼくが狂ったのはピアノのせいです」と言ったことがあります。
音は人を救いもするし、破滅にも追いやる。

「 気持よく生きるため」のサウンドスケープ論。

◆著者紹介
「鯨だ! 鯨が湾に入ったどお!」
小松正史。京都精華大学人文学部の先生。
今をさかのぼるところ7年前。
サウンドスケープなる言葉が世間を騒がし、
なんとなく世の中に新しい風をおこしそうな
予感をかもしだしていました。
そんな中まだ20代の若さで京都・伊根浦を舞台に、
昭和2年まで鯨の姿が見られた湾や
近所のおっちゃん達の語る「声」を中心にした
独自のサウンドスケープ(音風景)論をひっさげて登場。
私は「この若さですごいなあ」と思っていました。

その後どんな研究をしているのかを聞きたくて、
大学の研究室を訪問したのが、2003年の夏。
初対面なのにいきなり話が盛り上がってしまいました。
視覚障害者が不自由しないようにとプラットホームや
交差点で鳴らされている「ピンポーン」などのサイン音が、
町中に同時多発的に鳴り響いている。
聞こえなければならない場所で音がかき消され、
視覚に障害をもつ人が地下鉄の入り口で迷っている姿を目撃した話
などが語られました。

彼のライフワークは、サウンドスケープ論や環境心理学、
五感環境学などの研究のほか、
砂浜・神社・酒蔵などでピアノ即興演奏、
映像音楽制作、ワークショップ、
まちづくりの提案などの活動分野にも及び、
思わずコマツ宇宙のなかに入り込んでしまいました。
で、すぐさま「新しいおとろん音論を書いてください!」
という事態に。

◆ 本作り
本の体裁である装丁は『オトナ語の謎』でお馴染みの
プリグラフィックスさんにお願いしました。
音の静けさをフオルムにしたらこんな形、色?
と思えるほど、無駄なものを一切なくした緊張感のあるカバー。
まちがいなく、わが編集者生活のなかで、一番完成度が高く、
納得感100パーセントの装丁です。

この本をつくる過程で小松さんと書店をめぐりました。
編集者として、著者と一緒に本屋さんめぐりをしたのは初めてです。
お互いが納得のいくものをつくろうと、
陳列された本に対して「ここがイイ」、「これってサイテー」
などと好き勝手に寸評しながら、
本書のトータルイメージをつくりあげていきました。

ゼミの学生と録音機材やデジカメを持参して
京都の音を拾っていく音風景路上観察隊を設立した話が本文にあります。
その様子をNHKのサイトで見た小松さんの知り合いから
こんなメールが届きました。
「懐かしいっ! というのが感想。あやうく涙が出るところでした。
なんでコマツさんがサウンドスケープやってるのか
分かった気がする。だってね、音ってすごいね」
この話がもとになって、本書のタイトルが決まっていきました。

本の中身のほんのさわりを紹介しておきます
第一章 音の原風景
第二章 京の音
第三章 大学の音
第四章 葉擦れ音
第五章 まほう使い
第六章 表現へ

第一章には小松さんの音に関する原点が描かれているので、
もちろんここから読んでいただきたいのですが、
あとはどこの章のページをめくっても
コマツ宇宙が独自に展開される不思議な本です。

◆京都発全国へ
京都の竹林の音が「残したい音風景100選」の第11位に
ランキングされていると本書にあります。
「好ましい音」の第3位は川のせせらぎの音、
8位がお寺の鐘というデータもあります。
高台寺の鐘の音、鴨川のせせらぎの音に囲まれた京都の地で
小松さんの感性は、沿道の道路交通騒音のうるささをへらすために
葉擦れ音の鳴りやすい街路樹を植えて、
自動車の走行音の不快感をやわらげる計画などを生み出します。
研究室から飛び出して、
フィールドワークを繰り広げる小松さんの活動は
さまざまなマスコミにとりあげられています。

初対面のときに小松さんが熱く語っていたことは、
2003年10月の京都新聞で
「音 入り乱れる大通り交差点 京で調査、視覚障害者ら影響」
という見出しで取り上げられました。
京都の地下鉄入り口で迷っている視覚障害者の姿は、
日本全国でも見られるはずなのです。

◆クリエーターの方に
朝、起きるとランニングを
一時間ほどすることが日課になっている小松さん。
身体は脳であり、脳は身体であるという持論は
ランニングの「気持ちよさ」から生まれたものかもしれません。
文章をパソコンで打つときも
「身体的感覚」をコンピューターのキーボードを
打つ場合に利用する。手と肩の力を出来るだけ抜いて、
ジブンの想いが発生するアタマに意識を傾け、
湧き出た感情を思いのままに出してみる。
いったん出してみると、
とても不思議なことに芋蔓式に思いが溢れだす。
小松さんにとって音は表現の一つです。
ピアノ即興演奏の際「表現するのに大切なこと。
それは、ファーストインプレッションがもたらす
壊れやすい怜悧な衝撃の断片を、
丁寧にしたたかに
腕から指に連動するフィジカルな運動に変換すること。
思考を身体化する呼吸が表現する背景には必要なのだ。」
と述べています。

『・ design myself by sounds』

彼が行なってきた研究・音楽・社会活動のライフワークの根幹は
この精神からきているようです。
クリエイトな仕事に携わっておられる
総ての人たちにも読んでいただきたい1冊です。


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