音学のご紹介 / Acoustic Ecology

soundscape_title02音学とは、「音の学問」を意味する造語です。
音学は、「サウンドスケープ(音風景を知覚する現象)」についての
調査・分析・解釈を行う行為です。

その元となるアイデアは、
シェーファーが提唱した《音響生態学(acoustic ecology)》であり、
「サウンドスケープ研究」として広がった学術分野です。
この研究領域の大きな特徴は、特定の地域を対象にした
「現場主義」による音のフィールドワークが行われることです。

現場の音風景を丁寧に観察し、
様々な方法を使って音風景を記録します。
大切なことは、現場の音風景の臨場感を、
他の人に実感を込めて、伝える配慮です。

研究のためのデータを出すだけではなく、
他の人と音を共感し合うきっかけとして、
音風景を記録することに意義があります。

■出典:小松正史『サウンドスケープのトビラ』(昭和堂、2013年)


サウンドスケープ(音風景)を「記録」する方法

【身体的記録】
・音のリスト化(きこえた音に名前をつけリストにする)
・サウンドマップ(きこえた音を絵で表現する)
・文章記録(きこえた音の印象を言葉で表現する)

【SD法】
・ことばのものさしを使って音の印象を心理的にはかる

【器械的記録】
・騒音計(音量を物理的にはかる)
・録音機(記録メディアに音を録音する)
・カメラやビデオ(音源の視覚情報を記録する)

【意識調査】
・アンケート(音風景意識を「広く浅く」知る)
・ヒアリング(音風景意識を「狭く深く」知る)

■ 出典:小松正史『サウンドスケープの技法』(昭和堂、2010年)

soundscape_graf01

音のフィールドワークの実際

音の記録に、決まった方法はありません。
音環境の記録方法から適当なものを使い、
いくつかを組み合せ、まとめていきます。
観察記録の順序を簡単に紹介しましょう。

■ 出典:小松正史『サウンドスケープのトビラ』(昭和堂、2013年)

音学1
現場測定風景 (河原町五条)

1. 観測地点を決める

対象となる地域が一望できる高台に登り、
全体の風景を眺めて観察地点を決めます。
その後現場に出向き音風景を確かめます。
直感で場所を選ぶことがまず大切ですが、
自然ー人工、にぎわいー静けさ、などの、
対照的な場所を選ぶ方法もよいでしょう。

音学2
京都タワーからの遠望風景

2. 身体的に記録する

耳で感じた音風景を身体的に記録します。
きこえた音に名前を付けリスト化したり、
紙面上に音源の絵と位置を描写するなど、
複数の方法を有効に使い記録しましょう。
人によって表現方法に違いはありますが、
自分の感覚を信じ大胆に記録しましょう。

音学3
描かれたサウンドマップ

3. 器械的に記録する

複数の観察地点を比較しやすくするため、
騒音計を用いて音風景の音量を測ります。
手持ちでも三脚を用いてもかまいません。
大切なのは、耳で感じる音の感覚だけで、
音風景の雰囲気を、判断しないことです。
録音による記録も、大変有効な方法です。
臨場感のある音風景の記録が可能ですし、
未来への貴重な音データにもなり得ます。
音源の視覚情報を記録することも効果的。

音学4
三脚上の録音マイクと集音計

4. 意識調査をする

音風景を記録する上で一番大切なことは、
人が音にもつ大切な記憶や感覚の意識を、
最大限に汲み上げる方法を選ぶことです。
アンケート調査やヒアリング調査を行い、
地域の音風景を丁寧に紡ぎ上げましょう。
「音の記憶」の記録も、非常に重要です。
耳の証人と言われるキーパーソンを探し、
昔の音風景が眼前に現れるような感覚で、
音の感性をとぎすまして記録しましょう。

音学6
住民の声をヒアリングし録音

番外編1. 心理実験する (SD法等を使用)

アンケートやヒアリングを行うだけでは、
音風景をデザインすることは難しいです。
音に対する細やかな印象を数値で評価し、
今後の音指針に役立てることも重要です。
ことばのものさしによる心理実験を行い、
音だけでなく、視覚との関係性について、
重要な知見が得られることも、あります。
多角的な方法で音風景に近づきましょう。

音学7
視聴覚相互作用の実験室現場

番外編2. 録音データから作品を作る

録音データから、音作品を創りましょう。
音風景の音源をそのまま使っても、よし。
楽曲中に印象的な音風景を入れてもよし。
音から風景を感じられる作品に仕上げましょう。

音学8
編集作業画面 (GarageBand)